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スーパー畜産部はコロナ禍以降も好調を継続。2021年も力をいれるべきポイントは?

コロナ禍以降のスーパー畜産部の状況について、本ホームページでは、既報記事「新型コロナウイルスによるスーパー畜産部への影響は?何が伸びている?」(2020/3/31投稿)、「スーパー畜産部での長年の不振カテゴリーである牛肉… 特に課題だった若年層向けの牛肉消費が今伸びてきている!」(5/15投稿)、「スーパー畜産部で好調の豚肉と鶏肉。 コロナ禍以降さらに売上を伸ばしているのはどんな理由?求められているコトとは?」(5/21投稿)などで紹介してきました。コロナ禍以降、家での手作り食事の増加により生鮮部門が売上げを大きく伸ばしましたが、畜産部門は特にその伸びが大きく、かつコロナ禍の長期化する状況においても安定して伸びを維持しています。今回は畜産部の中でも好調を持続しているカテゴリーにフォーカスしてその背景と対策について発信していきます。


目次

●スーパー畜産部の好調は継続中。主に若年層がけん引役。

スーパー畜産部の2019年1月から直近までの数字状況を見てみます。

図①は2019年1月から2021年1月第3週までのスーパー畜産部の週別売上げ推移です。スーパー畜産部は、コロナ禍の2020年3月以降売上げを大きく伸ばしましたが、好調な状況は2021年に入っても続いています。

図②は年代別のスーパー畜産部の2020年の利用金額と前年比です。畜産部の利用年代別では、若年層が大きく利用を伸ばしており、高齢層の伸びは控えめです。この年代別の傾向はコロナ禍当初から現在まで引き続いているようです。

図③は畜産部のカテゴリー別の2020年の売上げ金額と前年比です。どのカテゴリーも数字を伸ばしており、特に生鮮肉が好調だったことがわかります。ちなみにこの中では一番悪いローストビーフも年後半からは盛り返してきており、クリスマス・年末は前年比約110%と良い数字になってきています。

生鮮肉カテゴリーについて、2020年の月別の前年比推移から直近の流れを確認してみます。

コロナ禍当初はひき肉の伸びが目立っています。第一次緊急事態宣言下において、子どもが好きなメニューが多い食材として大きく伸びましたが、緊急事態宣言解除後は他のカテゴリー並みの伸びになっています。また内臓肉は5月以降の家庭内での焼肉メニューで伸びてきており、根強い焼肉需要で強い流れを維持しています。直近の12月はどのカテゴリーも前年比約110%に横並びに安定して伸びています。

それでは次章以降で、それぞれのカテゴリーで今後も注力していくべき部分や戦略について述べていきます。

●牛肉では和牛の好調が目立つ。産地別に求められるメニューの把握が重要。

牛肉カテゴリーでは産地別で売上げの調子に差が出てきています。

図⑤は2020年の牛肉の産地別の年間売上げと前年比ですが、和牛の伸びが目立ちます。

そしてこの産地別の売上げの調子はコロナ禍期間ずっと同じ動向になってきているようです。図⑥は産地別の2020年の月別推移ですが、和牛はコロナ禍当初から現在までずっと前年比120~130%前後を保つ好調さを維持しています。年末もすき焼きのたれが大きく伸びたのと連動して和牛も好調で、特に若年層の動きが良くなっていました。帰省や外食などが制限された中で、唯一残された家での食事という楽しみを出来るだけ最大化していこうとする気持ちを感じます。この若年層では年末だけでなくコロナ禍期間を通して和牛は全体平均よりもさらに動きが良くなっています。

若年層でも輸入牛、国産牛の動きは全体とあまり変わらないのですが、和牛の伸びは全体平均よりもさらに良くなっており、和牛の全体での前年比が123%なのに対して、若年層での和牛の前年比は143%とより大きな伸びとなっています。国などからの販促支援対策による助成金や補助金があったり、本来なら外食で消費されているものがスーパーに回ってきたりと、外部環境の変化による影響が大きくはなっていますが、この機会に若年層や子どもにも和牛の美味しさを知ってもらい、ファンになってもらう良いチャンスではないかと思われます。

また、牛肉の産地別それぞれに求められているコトは少しずつ違っているのかなというのが、同時に買われているメニュー調味料から感じることができます。

図⑧はそれぞれの産地の牛肉を買った時に同時に買われるメニュー調味料の点数を産地別に比較したものです。焼肉のたれは、どの産地の牛肉でも万遍なく購入されていますが、すき焼きのたれやしゃぶしゃぶのたれは和牛購入者により多く買われ、逆にハヤシライス・ハッシュドビーフやビーフシチューは輸入牛購入者の方が多く利用されています。もちろん和牛が高齢層寄り、輸入牛が若年層寄り、というもともとの購入者の年代の違いがメニューの嗜好にも出ていることはありますが、こういった産地別のメニューの違いを把握しておくことで、POPでのアピールメニューや一緒に並べるメニュー調味料などを工夫していくことで、よりお客様に喜んでいただける売場づくりにも活用できるのではないでしょうか。

●豚肉はしゃぶしゃぶ肉が一番の強化ポイント。一緒に買われるものからの強化対策。

豚肉カテゴリーでは、部位別の2020年の売上げ金額と前年比を調べてみます。

豚肉カテゴリー全体が前年比110%ですので、どの部位も調子がいいですが、特に豚しゃぶしゃぶ肉は前年比117%と好調さが際立っています。売上げ上位3部位について2020年の月別の前年比推移も見てみます。

コロナ禍直後の2020年3~5月は豚うす切り肉、豚小間切れ肉・切り落としが休校や在宅勤務による昼食需要の増加による、お好み焼きや焼きそば、肉野菜炒めなどのメニューに使われることで大きく売上げを伸ばしましたが、第一次緊急事態宣言解除後の6月以降は比較的少し落ち着いた動きになってきているようです。しかし豚しゃぶしゃぶ肉は6月以降もさらに増加高を拡大し続けてきており、2021年に入ってからも前年比120%以上と大きな伸びを維持してきています。

豚しゃぶしゃぶ肉は春から夏にかけては、冷しゃぶや、生姜焼き・回鍋肉などの炒め物での使用で安定した伸びを維持し、9月以降から直近までは鍋需要で拡大し続けています。

図⑫は鍋つゆの2019年、2020年の週別別売上げ推移ですが、2020年9月下旬から大きく伸びてきており、直近2021年に入ってきてからでも好調な推移を示しているのがわかります。そしてこの鍋つゆと最も相性の良いお肉が豚しゃぶしゃぶ肉となっています。

図は鍋つゆと一緒に買われるお肉について調べたデータで、豚しゃぶしゃぶ肉の棒グラフの206は、鍋つゆを買った人1,000人の内、206人が豚しゃぶしゃぶ肉も一緒に買ったことを、豚しゃぶしゃぶ肉の折れ線グラフの6.3は鍋つゆを買った人は全体平均よりも6.3倍豚しゃぶしゃぶ肉を買いやすいことを表しています。豚しゃぶしゃぶ肉は鍋つゆと一緒に買われる量でも、買われやすさでも最も高い値を示しています。第二次緊急事態宣言下と寒波が続く現在の巣篭り需要が旺盛な今後も鍋需要で豚しゃぶしゃぶ肉の好調が続くことが予想され、春先までこのニーズが続くと思われます。

この豚しゃぶしゃぶ肉について、その購買傾向からいくつか企画を考えてみました。

豚しゃぶしゃぶ肉を買う方は牛しゃぶしゃぶ肉も同時に買いやすい傾向があり、しかも和牛とか国産牛とかのちょっと良いお肉のしゃぶしゃぶ肉を買われているようです。外食でのしゃぶしゃぶではいろんなお肉を楽しむと思いますが、その影響でしょうか、豚だけ牛だけではなく、両方楽しむしゃぶしゃぶをする方が増えてきているようです。豚しゃぶパック、牛しゃぶパックを同時購買してもらえるような施策が有効ではないでしょうか。また、もともと豚肉を買う人は約半数が何らかの調味料を一緒に買いますが、豚しゃぶしゃぶ肉はポン酢とごまだれを同時に買う方も結構多く、様々な味のたれでしゃぶしゃぶを楽しんでいる様子もわかります。水菜やねぎ、豆苗との同時購買も増えてきており、肉巻き野菜のしゃぶしゃぶ提案など、おうち時間をより楽しめるしゃぶしゃぶ提案を売場から発信していきましょう。

●鶏肉では手羽やささみが特に好調。ささみは同時購買からわかるメニューをしっかり訴求。

鶏肉カテゴリーについても、部位別の2020年の売上げ金額と前年比を調べてみます。

鶏肉カテゴリー全体も前年比111%と大きく伸びており、またコロナ禍期間ずっと安定して伸びているのが特徴です。伸び率トップの鶏手羽の売上げ状況を見てみます。

鶏手羽が第一次緊急事態宣言解除後も安定して伸び続けているのがわかります。鶏手羽の対策については、既報記事「スーパー畜産部で好調の豚肉と鶏肉。 コロナ禍以降さらに売上を伸ばしているのはどんな理由?求められているコトとは?」で発信させていただいたように、若年層では「手羽先の甘辛揚げ」のようなメニューをおかずやおつまみに、高齢層では「手羽元のさっぱり煮」が夕食のおかずに食べられていることがわかる購買動向になっていますので、こういったメニューによる販促や関連販売が重要です。

今回は伸び率2位の鶏ささみについて対策を提案させていただきます。

鶏ささみは第一次緊急事態宣言での伸びはそれほど大きくなかったのですが、夏から秋・冬と安定した伸びを続けてきています。

ささみの売上げが伸びてきている理由のひとつに大パックが売れていることがあります。

ささみの1パック当たりの単価では500円台、600円以上が伸びてきています。もう少し詳しく、ささみの売上げ分解図でも確認してみます。

ささみは買い物回数、1回単価の両方が伸びています。買い物回数をさらに分解すると、ユニーク客数(1回でもささみを買った人の人数)でも頻度(1回でも買った人の年間でのトータル購買回数)でも伸びており、ささみを利用する方が増えている、そして食卓に登場する回数も増えていることがわかります。1回単価では1品単価が伸びており、大パックが好調な影響が出てきています。

また、ささみが買われている買い物カゴを分析すると、ささみが利用されているメニューがわかりやすく表れているレシートが多くなっていました。

図⑳では、ささみと一緒に買われる商品の購買点数と買われやすさを鶏正肉と比較してまとめました。買われやすさ(リフト値)とは例えば、梅肉の8.4とは、全体平均よりも、ささみを買う人は8.4倍、梅肉を買いやすいということを示しています。これらのささみの購買動向から予想される、ささみを使った食卓メニューについてはこんな感じになるのではないでしょうか。

ささみを買った時の梅肉の買われやすさが高い理由がちょっとわからなかったのですが、ネット検索でもささみと梅を使ったメニューはとても多くヒットします。揚物でも和え物でもメニューレシピに事欠きません。他にも、ささみの鶏天やささみのチーズ春巻きなども作っている方が多いようです。ささみの大パックを買ってくれるお客様に向けた、メニューPOPや関連販売に活用できる情報ではないでしょうか。

●ひき肉はメニュー訴求が重要。作られてるメニュー、伸びてるメニューは?

ひき肉カテゴリー全体では前年比115%と大きく伸びており、どのひき肉も好調な数字となっています。

特に第一次緊急事態宣言下の2020年4月は、豚ひき肉が144%、合いびき肉が137%と大きな伸びとなりました。直近の12月でも、豚ひき肉が116%、合いびき肉が111%と、安定した伸びを維持しています。どのひき肉も特に平日の伸びが大きく、普段のメニューとしてのニーズで必要とされていることがわかります。

それぞれのひき肉の利用年代は、牛ひき肉のみ60~70代を中心とした高齢層寄りになっており、それ以外のひき肉は30~50代の子育て世帯が中心の購買層になっています。

合いびき肉と豚ひき肉は購買年代層に違いはありませんが、地域性や使用メニューでは違いが出てきています。地域性では、既報記事「豚肉は東日本で、牛肉は西日本でよく食べられる?」でもお話させていただいた通り、牛肉の西高東低があるため、合いびき肉は西の方での購買が強く、近畿圏では合いびき肉:豚ひき肉が6:4ぐらいの消費、首都圏では逆に4:6とか3:7ぐらいになっているようです。

使用されるメニューの違いについて、まずは合いびき肉がどのようなメニューで使用されているのか、一緒に買われる調味料から調べてみます。

図㉔は合いびき肉を買った人1,000人でその調味料が何点買われたかの数値(同時PI値)を表しています。ハンバーグ関連調味料やパスタソース関連調味料を一緒に買う方が増えていることがわかります。トマト調味料はトマトペーストやトマトピューレなどで、ミートソースの材料として使用されていると思われます。香辛料も伸びていますが、中でもナツメグの伸びが目立ち、やはりこちらも手作りハンバーグに利用されているのでしょう。

豚ひき肉では麻婆の素が多く買われています。香辛料や中華基礎調味料が伸びていますが、花椒(ホワジャオ)や豆板醤、甜麺醤などが伸びてきており、麻婆の素に頼らない手作り麻婆メニューにチャレンジする方が増えてきているのでしょうか。カレールーからではなく、スパイスからカレーを調理する方が増えてきていることにも通ずるものがあります。中華基礎調味料では他にも鶏ガラスープの素やオイスターソースなど、おそらく手作り餃子に利用されていると思われる商品の利用も増えてきているようです。

合いびき肉、豚ひき肉は、ハンバーグや麻婆メニュー、ミートソースや餃子など超定番メニューへの利用が多いのですが、伸びてきているのではないかと分析できるメニューにも着目してみました。

まずはキーマカレーやドライカレーが伸びてきているようです。図㉔、図㉕のキーマカレーの素は商品名に明記されているものだけを抽出していますが、通常のカレールーを使用してキーマカレーを調理している方も多いようです。タコライスについても、エスニック調味料がコロナ禍以降、目立って伸びてきているように、メニューレパートリーの拡大というトレンドに合った動きです。エスニック系では他にはガパオライスも検索が多くなってきており注目メニューのひとつです。
また、ひき肉は大パックで買われることが多くなってきており、定番メニューの豚肉や牛肉の代わりに使用されることも増えてきているようです。お好み焼きやハヤシライス以外にも肉じゃがやチャーハン、焼きそばなどへ使用も広がってきています。
そして、そぼろや肉味噌などの、ひき肉でしか作ることのできない定番料理も食卓データでは顕著に増加してきています。これらのメニューについて、現在はあまり専用のメニュー調味料の販売は少なく、基礎調味料から作られることが多いようですが、過去のいろいろなメニューに使われる調味料の歴史(基礎調味料→汎用調味料→メニュー専用調味料となるメニューが多いこと)から考えて、専用商品を作る価値もあるのではと思います。


スーパー畜産部の直近状況について、いろいろと調べてみました。肉原料の供給サイドではコロナ禍においていろいろと多くの問題を抱えていて大変な部分がありますが、お肉そのものへのお客様の支持は根強いものがあり、その期待に応えていけるような供給ができるように応援していきたいと思います。また、お肉への支持度が強いことの副作用として、肉メニューのマンネリ感が出てきているという声もあります。新たなメニューや食べ方、楽しみ方を提案できるように考えていきたいと思います。


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