コロナ禍をきっかけにしてスーパー水産部の若年層の利用が増えてきています。しかし去年まではスーパー水産部の若年層利用は徐々に減少していっており、特にスーパー水産部の顔とも言える「お刺身」で若年層の離反が進んでいました。若年層が「お刺身」をどう利用しているのかを把握することによって、現在の伸びを確実にしていく戦略を考えていきたいと思います。
目次
スーパー水産部において、「お刺身」の売上は大きな割合を占めます。
刺身・冊の売上はスーパー水産部門の3割以上を占めており、お魚売場の顔とも言える重要なカテゴリーです。(図①)しかし、「お刺身」は昔と比べて家庭の食卓に登場する機会はめっきり減ってきています。
図②は総務省の家計調査の「さしみ盛り合わせ」の1人当りの月間消費金額の長期推移です。なお、こちらは「お刺身の盛り合わせ」のみのデータで、「単品のお刺身」は入っていないデータですので、ご注意ください。
こちらのデータを見ると「お刺身」の利用が、30年前と比較すると今は半分以下の利用に減ってしまっていることがわかります。その大きな要因は、過去に投稿した記事「魚は年をとったら食べるようになる?高齢化社会なら漁業は安泰か?」でも紹介しましたが、新しい世代ほど魚離れが進んでしまっていることにあります。
「さしみ盛り合わせ」についても、それぞれの世代ごとに過去にさかのぼって調べてみると、新しい世代ほど購入金額が少なくなってしまっていることがわかります。「さしみ盛り合わせ」の利用については、世代間の格差が大きく、かつその格差が世代によって生涯にわたって固定されてしまっている状態になっています。(図③)
しかし、今回のコロナ禍以降、若年の刺身利用が増えてきています。
若年層の刺身の購入金額はコロナ禍以降は赤線が青線を上回っている、前年を上回り続けていることがわかります。(図④)一方、高齢層は増えていない、むしろ減っている週が多くなっています。(図⑤)これらの背景にあることを知るために、さらに詳しく、年代別、平日休日別でも前年同時期と比較してみました。
図⑥によると、コロナ禍以降の刺身の利用は、若年層ほど伸びが大きくなっており、平日休日ともに伸びています。高齢層では平日は前年並みですが、特に休日で大きく減少しており、これが高齢層全体での減少につながっています。コロナ禍以降、高齢層の買物回数の減少が際立っており、特に平日よりは密になりやすい休日の来店が避けられてしまっていることにより、高齢層の休日来店頻度が減少していることも背景にありそうです。
コロナ禍以降、スーパーへの平日の来客数は若年層、高齢層ともに減少しています。高齢層の方が減少幅は少し大きくなっています。
コロナ禍以降のスーパーへの休日の来客数は、若年層が前年並みを保っているのに対して、高齢層は平日以上に減少していることがわかります。こういったことが背景にあるので、お刺身の利用や、お刺身以外の利用についても、高齢層の売上減少の傾向はしばらく続いてしまう可能性が強くなっています。
では、若年層のお刺身利用にはどのような特徴があるのでしょうか?大きな特徴として4つ挙げられます。
1.若年層はお刺身をイベント日によく利用している。
お刺身の利用金額について、日別の動向を見てみました。
図⑨は高齢層の、図⑩は若年層のお刺身の利用金額の日別動向となります。
高齢層の特徴としては年末に大きなピークがあり、その他ではお盆とひな祭りに少しピークがあるぐらいですが、若年層では年末やひな祭り以外にも節分、クリスマス、ゴールデンウィーク、母の日、父の日と多くのイベント日でピークが見られます。また基本的な傾向として高齢層と比較して若年層では平日休日の売上の差が大きくなっていることも見てとれます。若年層がお刺身をハレの日メニューとしてとらえていることがわかります。
こういった若年層の求めるコトに沿えるような、例えばまぐろの中落ちを骨付きの状態でねぎ取れる楽しさを味わえるものや、大トロ・中トロ・赤身を一度に味わえるまぐろの断面刺し、といったハレの日の食卓に驚きと楽しさを演出できるようなものの商品化が対応策のひとつとして考えられます。
2.若年層はお刺身をそのままではなく、米飯メニューの材料として利用している。
お刺身の購買年代層は高齢層寄りですが、お刺身と手巻き用海苔を一緒に買ったお客様を調べてみると、ご覧のように大きく左にずれてきて若年層がメインとなってきます。(図⑪)
図⑪はお刺身全体でのグラフですが、まぐろ刺身などの単品刺身でも、刺身盛り合わせでも、冊でも、同様な傾向となっています。また、まぐろ丼のたれや寿司酢、ちらしの素などのメニュー調味料も、若年層の方が高齢層よりも約2倍以上、お刺身と一緒に買われやすい傾向も出ています。高齢層にとっては、お刺身は主に夕食のメインのおかずのひとつという位置づけですが、若年層では手巻き寿司や海鮮丼、ちらし寿司といった米飯メニューの材料のひとつという認識が強くなってきているようです。
3.若年層では寿司種セット、海鮮丼セットの利用が多い。少し小さ目の冊セットが狙い目。
若年層はお刺身を米飯メニューの材料のひとつとして利用していることから、近年増えてきている寿司種セットや海鮮丼セットも、利用の中心は若年層になっています。
ただ、寿司種セットや海鮮丼セットは商品化に手間がかかるため、割安感という点では弱点があります。少し小さ目の冊セットであればこういった弱点をカバーできるのでおすすめです。まだあまり売場では見ないですが、実施しているスーパーではヒット商品になっているようです。
4.若年層はとにかくサーモンが好き!刺身ではなく洋風メニューやおつまみとして利用。
刺身類のなかでは唯一、若年層が購買の主体になるのがサーモン刺身です。
刺身盛り合わせや、まぐろ刺身など、ありとあらゆる刺身が高齢層寄りなのに対して、サーモン刺身だけが食品全体の年代面よりも左寄りの山になっており、若年層寄りの購買になっていることがわかります。(図⑬)
このサーモン刺身を若年層がどんな商品と一緒に買っているかを調べてみると、高齢層の買物カゴにはあまり入っていないものが多く挙がってきます。調味料ではカルパッチョソースが一緒に良く買われており、またカット野菜のカット玉葱の購買も多いことから、サーモンカルパッチョに仕上げて食卓に登場させていることがわかります。またアボカドやクリームチーズも一緒に良く買われており、サーモンとアボカドのポキサラダや、サーモンとクリームチーズのオードブルなどの洋風のおつまみメニューなどに仕上げていることも伺えます。家飲みが増えてきている今はさらに狙い目かもしれません。
サーモンはお刺身だけでなく、切身やスモークサーモンなども合わせてサーモンコーナーとして売場づくりされることも多くなってきていますが、こういったメニューを想起できる関連販売もお客様に喜んでいただけるのではないでしょうか。
今回はコロナ禍以降、若年層に売上が伸びてきている「お刺身」について、その利用特徴と戦略対応事例を紹介させていただきました。若年層のお刺身利用状況を調べてみると、必ずしもツマの上に綺麗に盛られた刺身パックが必要とは思えない利用も多くなってきており、むしろ簡素な冊をリーズナブルに提供してもらった方が良いのではとも感じました。生活者の変化に合わせた商品づくりや売場づくりを考えていきたいと思います。
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