コロナ禍により家での手作り食事機会が増えることに伴って、食パンやフランスパンなどの食事系のパンが売上げを伸ばしています。逆に、移動時や家の外―職場や学校などーでの利用が多かった菓子パンや惣菜パンは休校や在宅勤務、外出の自粛などによってその食機会を失うことで、売上げを落としています。
今回は伸びてきている食パンやフランスパンについて、購買状況や利用状況などの現状を詳しく把握し、さらに喜んで利用していただけるような施策を考えていきたいと思います。 菓子パン(あんパン、クリームパンなど)や惣菜パン(カレーパン、ソーセージパンなど)、調理パン(サンドイッチ、ハンバーガーなど)についてはまたの機会をお待ちください。すみません。
目次
食パンのスーパーでの売上げはコロナ禍以降、好調な数字を維持しています。
コロナ禍当初、2月最終週の自粛要請から第一次緊急事態宣言下の2020年3~5月は、休校や在宅勤務などによって、ゆっくりと朝食をとれることで、食パンをしっかりとトーストして食べる需要が高まり、食パンの売上げが大きく伸びました。また夕食で1割、昼食では2割も家で食事をとる方が増え、調理トーストやホットサンドなどの食卓登場が増えたことも食パン増加の一因です。第一次緊急事態宣言解除後の6月はいったん前年並みとなり、落ち着くかと思われましたが、7月以降も安定した伸びを維持してきています。家での食事は現在でも夕食で約5%ぐらい、昼食で約10%ぐらいの増加が続いており、ある程度の保存がきき、簡単なひと手間で食事ができる食パンのニーズは堅調なものがあります。
具体的に食パンが伸びている数字の中身について、さらに深堀りしていきます。 まずは、買われるお客様の年代によって、食パンの伸びに違いはあるのでしょうか?
図②は食パンの年代別の2019年と2020年の購入金額の比較です。コロナ禍以降の数字について、この比較をすると、スーパー全体の数字と同じく、多くの商品が若年層ほど伸びているという結果になりがちなのですが、食パンは60代で前年比106%、70代で105%と、40~50代と遜色ない伸びを示しています。食パンはコロナ禍以降、幅広い年代で売上げを伸ばしているようです。
食パンはこのように幅広いお客様からの支持を集めているようですが、買うお客様が増えているのでしょうか?一度にたくさん買われているのでしょうか?食パンが売上げを増加させている要因について、売上げ分解図で調べてみます。
図③の売上げ分解図により、食パンは買われる回数が増えていることによって売上げを伸ばしていることがわかりますが、買っているお客様の数自体はあまり変わっておらず(むしろ少し減ってる?)、食パンを買ったことがある方の買う回数、頻度が大きく伸びていることが、食パン売上増加の一番の大きな要因であるようです。
食パンは、もともと買っている方が、食パンの食卓登場回数を増やしていることによって伸びているようですが、食卓ではどのようにして食されているのでしょうか。食パンがどんな商品と一緒に買われているのか調べてみました。
食パンはPI値(レジを1,000人が通過した時に売れる商品点数、商品金額)が125点と、10人に1人以上が買っている超定番商品ですが、一緒に買われる商品からの傾向は、図④で何となく見えてくるのではないでしょうか。 まずは、ジャム、マーガリン、スプレッド・ディップ(ピザソースやツナフィリングなど)といった、パン用の調味料が一緒に買われやすい商品ランキングの上位に並んでいます。代表としてジャムについて販売動向を調べてみます。
図⑤はスーパーでのジャムの2019年1月から2021年1月までの月別の売上げ推移です。食パンと一緒に買われやすいもの1位だけあって、食パンの売上推移の図①とほぼ同じ形のグラフになっています。 では、やはりジャムも食パンと同じく、もともと買っているお客様が買う回数を増やしたことによって売上げが伸びているのでしょうか?食パンと同様に売上げ分解図で見てみます。
ジャムも食パンと同じく買われる回数が増えていることが伸びている要因ですが、食パンと違って、新たにジャムを買うようになったお客様が大きく増加していることが一番大きな影響を与えていることがわかります。つまり食パンの食習慣がもともとある方が、食パンを食べる回数が増えたことで食パンの新しい食べ方を欲することによって、これまでジャムを買ってなかった方が新たにチャレンジするようになった、という図式が見えてきます。ジャムだけでなく、マーガリンも同じように新たに買うようになった方が増えていることが一番の増加要因になっています。
そして、新たに買われるようになったジャムにも特徴が出てきています。
図⑦はジャムの価格帯別の2019年と2020年の比較ですが、100円未満のものと400円以上のものの伸びが目立ちます。100円未満のものは小容量のジャムですが、400円以上で伸びているものは大容量のジャムではなく、こだわりの高単価のジャムになっていました。定番の味のものは小容量を使い、プラスで高級ジャムを購入し、食卓に変化をつけている様子が伺えます。コロナ禍において増えてきた食パンの普段の食事を少しランクアップさせるこだわり消費に高価なジャムが利用されているようです。
プラスで人気のものは、ガーリックや明太子などの甘くないもののようで、こういったジャムやスプレッドは前年比約200%の伸びになっています。また、こだわりのジャムとして人気が出てきている、いちごバタージャムやりんごバタージャムなどの、果物+バターの商品名のジャムも前年比約120%で伸びており、他にもメイプルシロップ使用のジャムやスプレッドも前年比約117%で伸びています。普段の食パンの食事を少し豊かにできるような調味料の品ぞろえを充実させていく提案が有効そうです。
食パンと一緒に買われるものとして、食材ではハムやチーズが上がってきていますが、食パンの調理に使われることの多い、とろけるスライスチーズについて調べてみます。
図⑨は、スーパーでのとろけるスライスチーズの2019年1月から2021年1月までの月別の売上げ推移ですが、やはり図①の食パンの動向と同じ流れになっています。 とろけるスライスチーズの使われ方について、食パンととろけるスライスチーズを買ったお客様が何を一緒に買っているかから調べてみます。
図⑩について、食パンととろけるスライスチーズを買ったお客様は、例えばピザソース・パテなどを、全体平均と比べると11倍、買物カゴに入れやすいということを表しています。食パン+とろけるスライスチーズの組み合わせから食卓に登場するメニューは、ほとんどが調理トーストやホットサンドであり、こういったメニューに使われやすそうな商品が並んでいます。
注目食材としては「はちみつ」があり、チーズとはちみつを組み合わせた、「はちみつチーズトースト」「チーズハニートースト」が食卓で増えてきています。最近の食トレンドのキーワードのひとつとして「甘じょっぱい味付け」があり、フライドチキンにはちみつをかけたハニーチキンや、メロンパンの中にチャーシューあんを詰めたチャーシューメロンパンなど、塩気のある食べ物・辛い食べ物にはちみつやメイプルシロップなどの甘さのあるものを組み合わせたメニューが「中毒性があって美味しい!」とバズってきているようです。
また、もうひとつの注目食材が「パスタソース」で、食パンにカルボナーラソースやミートソースを塗って、ベーコンやツナやコーンなどをトッピングした、「カルボナーラトースト」「ミートソーストースト」など、様々な味付けのピザトーストも増えてきているようです。
食パンを使用する機会が増えたため、バタートーストに飽きてしまった家庭で、どんどん新たなメニューが登場してきています。こういった食パンの新たな楽しみ方の提案を売場からも発信できるようにしていきましょう。
フランスパンのスーパーでの売上げについて、週単位での推移を掲示します。
フランスパンは、ハロウィン、ボジョレーヌーボー解禁、クリスマスの10~12月にあるイベント週のピークに特徴が出るため、その特徴がわかりやすいように週単位での売上げを載せています。2020年はこれら3つのイベント全てにおいて、前年を上回る好調な売上げとなりました。
フランスパンは実はコロナ禍前から好調で、コロナ禍になってからも安定して伸びを維持してきています。
図⑫は、フランスパンの年代別の2019年と2020年の購入金額を比較したグラフです。図②の食パンのグラフと比較して見ると、フランスパンの方が若年層に強いことがわかります。そして食パンと同じく、どの年代でも幅広く売上げを伸ばしてきています。
図⑬は、フランスパンの売上げ分解図です。こちらも図③の食パンの売上げ分解図と同様に、売上げ増加に最も大きく影響を与えているのは頻度となっており、もともとフランスパンを買っている方が買う回数を増やしたことが好調の要因となっています。さらにフランスパンではハーフよりも1本丸ごとを買う人が増えてきていることで1品単価も伸びてきています。 フランスパンについても、一緒にどんな商品が買われているかを見てみます。
フランスパンと一緒に買われる商品からは、洋風なメニュー、食卓が想像できます。シチューなどの煮込みメニューやビーフステーキ、アヒージョやチーズフォンデュなどと一緒に食されたり、パテを付けて食べられたりしています。
フランスパンが伸びている背景のひとつとして、こういった洋風メニューの食卓登場自体が増えてきていること、そして一緒にフランスパンも買われるようになってきていること、両方の相乗効果があります。
図⑮は、シチュールー購入者1,000人当たりのフランスパン同時購入点数(同時PI値)の推移を2019年1月から2021年1月まで調べてみたものです。ご覧のように、シチュールーと一緒に買われるフランスパンが前年を安定して上回り続けていることがわかります。
同様にアヒージョの素を買ったお客さまでも、似た傾向が出てきており、こういった伸びてきているメニューとの相性が良いと認識されてきていることも、フランスパンが伸びている理由のひとつです。シチューやアヒージョ、チーズフォンデュといったメニューとフランスパンの同時購買をさらに促していくようなPOPや売場づくりが必要です。
そしてこういった特定のメニューの時にしかフランスパンを買わないライトユーザーを、普段の朝食にも使ってくれるようなヘビーユーザーに育てていく仕掛けも重要です。
図⑰はフランスパンの購入回数別の人数と金額のグラフです。当然、購入回数1~2回の人数は最も大きくなりますが、金額では10回以上、20回以上のお客様が全体の約7割を占めています。こういったヘビーユーザーを育てていく施策のひとつとして、曜日別のMDの工夫が考えられます。
図⑱はフランスパンの曜日別の売上げと前年比ですが、週末前の金曜日と週末の土曜日・日曜日の売上げが少し大きくなっており、また前年比も若干ですが他の曜日よりも良くなっています。「週末の朝はフランスパンで健康的な朝食を!」販促で普段使いしてもらえるようなお客様を増やしていきましょう。
今回は、コロナ禍以降、食パンが売上げを伸ばしてきている背景にはどんなことがあるのか気になったので調べてみました。意外にも、買っている人は増えてなくて、買っている人が買う回数を増やしていることが食パンが伸びている理由でした。マイナス理由を改善するよりも、プラス理由をさらに伸ばす方が取り組みやすいことが多いため、本記事では買う回数を増やしているところに着目して対策案を記しましたが、もちろん買う人を増やすにはどうすれば良いか?という面からのアプローチもあります。例えば、もち麦食パンや米粉食パンなどバラエティー化が進んできている食パンですが、こういった新しい食パンは、トライアルしやすいように2枚入りや1枚入りなどの商品を強化していくというのもひとつの策ではないでしょうか。パンについても奥が深そうです。またあらためて考えていきますので、次回のパン記事をお待ちください。
記事についてのお問合せはこちらから
記事・データの商用目的での使用はご遠慮ください。