暑い日が続く中でも、スーパーでは早くから秋冬の鍋商戦に向けた準備が進むと思います。しかし、近年は残暑が長引き、カレンダーだけでは鍋つゆ売場を立ち上げるタイミングを判断しにくくなっています。実際に何℃くらいになると鍋つゆが売れ始めるのでしょうか。
過去の記事で紹介しましたが、鍋つゆを購入する日の買い物かごは、通常の買い物より金額・点数が多くなります。2025年9月〜2026年3月のデータで見ても、鍋つゆ購入時の1回あたり購入金額は4,251円・購入点数は16.84点であり、通常の買い物(2,210円・8.93点)の約2倍となっています。鍋つゆは単品の売上にとどまらず、肉・魚・野菜・豆腐・締めの麺類など、売場全体への波及が期待できるカテゴリーです。
そこで今回は、スーパーのID-POSデータと気象データを組み合わせ、鍋つゆの売上が気温によってどう変化するかを分析しました。さらに、年代別の動きや直近シーズンに選ばれている味についても見ていきます。

図①は鍋つゆの週別売上金額を年度別に比較したものです。2025年度シーズンは多くの週で2024年度を上回って推移しており、全体として好調な結果となりました。
続いて、この鍋つゆの売上の変化と気温の関係を見ていきます。

図②は鍋つゆの週別売上金額と平均気温を重ねたグラフです。夏場は売上が低い水準で推移していますが、9月後半から気温が下がるにつれて売上が増え、冬場に高い水準となっています。気温と売上がほぼ逆方向に動いていることが視覚的にも確認できます。
実際に相関係数を確認すると、鍋つゆ売上との相関は平均気温が−0.734、最高気温が−0.750、最低気温が−0.717となっており、いずれも強い負の相関がみられますが、中でも最高気温との相関がわずかに強くなっています。最低気温は深夜や早朝に記録されることが多く、消費者が活動する時間帯の体感に近い最高気温の方が、鍋メニューの選択に影響しやすいと考えられます。
では、具体的にどの気温帯で売上がどのくらい変わるのでしょうか。

図③は平均気温を4段階に分けて、それぞれの1店あたり週平均売上を比較したものです。平均気温25℃以上と比べると、20~25℃未満では売上が1.7倍となり、鍋つゆ需要が動き始めます。15~20℃未満では夏場の1.9倍と高い水準が続き、15℃未満になると4.4倍まで大きく伸長しました。こうした売上水準の変化をもとに、20~25℃未満を「品揃え始め」、15~20℃未満を「販促強化」、15℃未満を「本格化」とすることが、売場づくりの一つの目安になりそうです。
天気予報を確認する際の参考として、最高・最低気温との対応もまとめると次のようになります。
・品揃え始め(平均20〜25℃未満):最高気温25〜30℃、最低気温16〜22℃が目安
・販促強化(平均15〜20℃未満):最高気温20〜25℃、最低気温11〜16℃が目安
・本格化(平均15℃未満):最高気温20℃未満、最低気温11℃未満が目安
「そろそろ鍋かな」と消費者が感じる、その少し前から売場が準備できているかどうか。カレンダーではなく気温の予報を見ながら段階的に強化していくことが、売上の立ち上がりを最大限に捉えるポイントです。 さらに、その週が何℃かだけでなく、前週からの気温差にも注目すべきデータがあります。

図➃は前週からの平均気温の低下幅と鍋つゆ売上の変化を示したものです。0〜2℃低下した週は平均3,734円増加、2〜5℃低下した週は平均9,794円増加しています。「急に寒くなった」という体感も、鍋つゆ購入のきっかけになることがうかがえます。週間予報で前週より冷え込む日が続く場合は、鍋つゆ需要の伸びを見込み、売場の拡大やクロス展開、POPでの訴求を検討するタイミングといえそうです。(※前週からの気温差は、日別ではなく週平均気温で比較しています。)
気温と鍋つゆ売上の関係が見えてきたところで、年代による動きの違いも確認しておきましょう。

図⑤は年代別(若年:30代以下、中年:40〜60代、高齢:70代以上)に温度帯ごとの金額PI値を示したものです。年代によって買い物回数が異なるため、鍋つゆの売上金額を1,000人あたりに換算した金額PIを用いて比較しています。
すべての気温帯で若年層の金額PIが最も高く、例えば平均気温20〜25℃未満では若年層が5,818円、中年層が4,417円、高齢層が2,469円となっています。スーパー1店舗あたりの売上を見ると、中年層や高齢層は来店客数が多いため単純な売上金額も大きくなりますが、金額PIで比較すると、すべての気温帯で若年層が最も高く、若年層は1,000人あたりの鍋つゆ購入金額が相対的に高いことがわかります。

図⑥は、平均気温25℃以上の売上を1.0として各温度帯の売上倍率を年代別に比較したものです。平均気温20〜25℃未満では若年層1.89倍、中年層1.76倍、高齢層1.58倍と若年層の伸びが最も大きくなっています。15〜20℃未満でも若年層1.99倍、中年層1.90倍、高齢層1.82倍と同様の傾向がみられました。
一方、15℃未満になると全年代とも約4.6倍まで上昇し、年代差は小さくなります。若年層は気温が下がり始める段階から先行して動き、寒さが本格化すると全年代で鍋需要が高まる構図です。
この傾向は売場づくりのヒントになるのではないでしょうか。シーズン初期(気温が25℃を切り始めたころ)は、若年層が手に取りやすい種類を前面に出すことで売上の早期立ち上がりを狙い、寒さが本格化するにつれて幅広い年代に対応した品揃えへと広げていく。こうした段階的な展開が効果的です。 なお、若年層に好まれる鍋つゆについては次章で見ていきたいと思います。
鍋つゆの売上全体が好調な中、種類別の動向も品揃えの参考として見ておきたいと思います。

図⑦は2024年度シーズンと2025年度シーズンの種類別売上金額を前年比とともに比較したものです。2025年シーズンで最も売上規模が大きかったのはキムチ・チゲで1店あたり約46.5万円(前年比111%)。次いですき焼きが約33.9万円(104%)、寄せ鍋が約22.7万円(99%)、豆乳・ごまが約20.7万円(106%)と、定番の味が上位を占めています。
伸び率に目を向けると、塩・鶏だしが前年比133%、担々・麻辣が138%、魚介だしが132%と伸びています。特に貝だしは前年の売上規模が小さかったこともあり、前年比346%と大きく伸長しました。ほたて・はまぐり・牡蠣など素材感やだしの特徴が伝わりやすい味は、定番鍋との差別化にもつながりそうです。また、PB品も前年比125%となり、前年を上回る動きがみられました。定番の味を確実に押さえながら、伸びているだし系や辛味系を加えて売場に変化をつけることが重要です。 では、種類ごとにどんな年代が選んでいるのでしょうか。

図⑧はコレスポンデンス分析の結果です。年代と鍋つゆの種類を位置関係で示しており、近くに位置する年代と種類ほど相対的な結びつきが強いことを表しています。
若年層側には白湯・豚骨、味噌、醤油、洋風などが位置し、中年層付近にはキムチ・チゲ、ちゃんこ、だししゃぶ、もつ鍋、塩・鶏だしがみられます。60代側にはしゃぶしゃぶたれ、魚介だし、和風だし、PB品、70代には寄せ鍋、80代以上にはすき焼き、おでんとの結びつきがみられました。 すべての年代に同じ売場を見せるのではなく、来店客の年代構成に応じた品揃えや訴求を意識することが、選びやすい売場づくりにつながります。また、2章でお話した通り、気温の下がり始めは若年層が反応しやすいため、残暑の時期は若年層に好まれる白湯・豚骨、味噌などの味付けから品揃えしていくのが良いのではないでしょうか。
本記事では、スーパーのID-POSデータと気象データをもとに、鍋つゆの売上を左右する要因を整理しました。
鍋つゆはカレンダーではなく気温を見ながら段階的に強化していくことが重要です。 また、シーズン初期は若年層が動きやすいため、キムチ・チゲ、白湯・豚骨、塩・鶏だしなども含めた売場で早めに需要を取り込み、寒さが本格化してからはすき焼き・寄せ鍋・おでんなど幅広い年代に対応した品揃えへと広げていく。気温と年代の両面を踏まえた売場づくりが、今シーズンの鍋商戦を立ち上げるポイントになるのではないでしょうか。
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今回の記事では、スーパーのID-POSデータと気象データを組み合わせて、鍋商戦の売場戦略につながる示唆を導き出しました。食未来研究室では、このような市場分析をさまざまなカテゴリー・テーマで行っています。
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