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食用油のコロナ禍以降のトレンドは?その背景にあるコト・シーンとは?

食用油は食品の中でも流行り廃り(はやりすたり)の激しいカテゴリーです。お客様が食用油の購入で右往左往してしまう大きな理由は、健康に良いのか?悪いのか?、言われることが医学や栄養学の研究発展によって時間が経つと変わってしまうことにあります。これこれこういう理由で健康に良いですよとアピールされて売れていたものが、しばらく経ってから確かに短期的には健康診断の数字が良くなるように見えるけれども長期的には実は体に悪いと言われるようになって売れなくなってしまう。食用油のトレンドの歴史は、こういった食べて良いのか?悪いのか?といった情報によって大きく左右されてきています。

とは言え、食用油は家庭では必需食品であり、特に手作り食卓ではなくてはならない重要な食品です。今回はコロナ禍以降の食用油のトレンドを食卓での背景とともに調べていきます。


●食用油の家庭での消費の歴史。長期的には健康意識や揚物メニューの外部化が大きく影響。

食用油の家庭での消費について、過去56年前までさかのぼって調べてみました。

図①では、総務省の家計調査から食用油の使用量、消費金額、kg単価、を算出して推移を表しています。1960~1970年代にかけて、食の洋風化が急激に進み、また揚物・炒め物メニューの増加などもあって、食用油を利用するシーンが急増し、家庭での食用油の使用量は倍増しました。しかし、1980年代に入ると健康ブームや日本食の見直しの動きが盛んになり、今度は一転して油を控えた食生活が推奨されて食用油の使用量の増加は止まり、以降は使用量としては緩やかな減少の流れになりました。

また、家庭での食用油の使用量が減少してきたもうひとつの背景には、揚物メニューの調理の段階が手作りから惣菜利用や冷凍食品利用に大きくシフトしてきたこともあります。1980年代からスーパーマーケットでの惣菜・弁当の販売が伸びてきており、冷凍食品の販売も増加してきました。最も油を多く利用する揚物メニューが手作りされなくなってきたことも家庭での食用油の使用量減少に影響が出てきています。 1980年代以降の食用油のマーケティングは「健康」が最も重要視されるキーワードになり、プロローグでも述べたように、体に良いのか?悪いのか?、という情報に消費が大きく左右されることになってきています。健康に良い油、こだわりの油、に消費が移っていくにつれて単価も上がってきて、使用量としては大きく伸びていませんが、消費金額は伸びてきている、市場規模が拡大してきている、というのが現在の食用油の状況です。

●食用油の直近の動きは?コロナ禍以降、伸びてきている食用油にはどんなものがある?

コロナ禍以降の家庭での手作り料理の増加に伴い、食用油のスーパーマーケットでの売上げも伸びています。

食用油は、コロナ禍以降の2020年3月から前年を大きく上回る売上げとなってきており、前年2019年9月の消費増税駆け込み需要(食用油は増税になっていないのですが雰囲気で買ってしまったのでしょうか…)の影響により2020年9月だけ前年割れとなった以外は安定して伸びを続けてきています。

図③では2020年の食用油をカテゴリーごとに、加えてバターとマーガリンの、スーパーでの売上げボリュームと前年比を比較してみました。バター、オリーブオイル、マーガリン、ごま油、こめ油、MCTオイルなどの伸びが目立ちます。

図④はバターとマーガリンの2019年と2020年の月別推移です。コロナ禍初期のホットケーキミックスの大きな売上げ増加にバターも当然セットになって売れ行きを伸ばし、3~5月は異常値と呼べるような前年比になっています。第一次緊急事態宣言後の6月以降も安定した伸びを見せているのは、家庭での手作り、特に子どもと一緒に楽しめる菓子作りが定着してきていることがあります。また、マーガリンも安定した伸びを見せている背景には、家の中での食事が増えたことに伴う食パンの売上げ増加があります。コロナ第3波到来や、第二次緊急事態宣言発出の中でも、これらの動きは継続していくと思われます。 また、アマニ油やえごま油の不振状況について、一昨年に大きく伸びていた反動やコロナ禍において安定供給の問題や販促が十分でなかったこともありますが、アマニ油やえごま油そのものから、アマニ油「入り」・えごま油「入り」商品に消費がシフトしてきていることもその一因であるのではないかと思われます。

図⑤はアマニ油とアマニ油入り商品(ドレッシングやマヨネーズなど)の2019年1月~2020年12月までの月別売上げ推移です。アマニ油そのものは停滞した動きですが、アマニ油入り商品は2019年に引き続き2020年も好調に伸びてきていることがわかります。アマニ油やえごま油が一過性のブーム的なものではなく根強い支持を得ていることを表しており、今後の巻き返しが期待できます。 バター、マーガリン以外の伸びてきている食用油について、以降の章でさらに詳しく見ていきます。

●ごま油は用途メニューが拡大!購入頻度アップと大容量化が売上げ向上のポイント。

伸びてきている食用油の中から、ごま油について2019年と2020年のスーパーの売上げの月別推移を見てみます。

もともと、ごま油は近年売上げが伸びてきていたカテゴリーですが、コロナ禍以降、さらに伸びが加速してきており、安定した伸びを維持してきています。

図⑦は年代別の2019年と2020年の売上げ比較ですが、特に40~60代での増加金額が大きくなっており、手作りが増えてきている年代と重なっています。

ごま油が使用されるメニューとして、もともとは肉野菜炒めや餃子、きんぴら、麻婆豆腐といった炒め物・焼物が多かったのですが、最近では、ひじき煮やわかめスープなどの煮物・汁物への使用であったり、ナムルや春雨サラダ、焼売など、ごま油を和えたりかけたりする用途でも使用が増加してきており、コロナ禍以降こういった動きが加速してきているようです。メニュー面では、いろいろなメニューに幅広く使われるようになってきていることが、ごま油の売上げアップにつながっています。 こういったごま油の用途メニューの拡大は、購買頻度や容量サイズに影響が出てきています。

コロナ禍初期の3~5月には、100g未満、100~300g未満、300~500g未満、500g以上、どのサイズも同じように売上げが向上しましたが、6月以降はもちろん前年は上回っていますが比較的落ち着いた動きとなりました。ただし、500g以上の大容量のごま油は9月以降も売上げ増加が目立ってきています。9~12月に大容量サイズのごま油を買った人を調べてみると、その中で2~5月には大容量ではなく500g未満のサイズのごま油を買っていたお客様の内、約2/3が9月以降大容量サイズのごま油にシフトしていました。ごま油がいろいろなメニューに使えることがわかって、購買容量サイズを大型化した様子がわかります。 ごま油の売上げアップ要因について、売上げの公式に分解して確認してみます。

ごま油は2020年、前年比122.4%と大きく伸びましたが、買われる回数でも1回単価でも大きく伸びており、両方の伸びの相乗効果で売上げが向上していることがわかります。さらに買い物回数は客数=ごま油を1回でも買った人の数、頻度=ごま油を買った人が何回買うか?、に分解できますが、新たに買うようになった人が増えており、また購入頻度も上がってきています。1回単価では前述した大容量化によって1品単価の向上による影響が大きくなっています。

ごま油の売上げアップの要因について、メニューシーンや購買動向をまとめてみました。

ごま油が様々なメニューに使えることのアピール、いろいろ使えるので大容量がお得ですよ販促、などにより、ごま油はさらに伸びていくのではないかと感じます。

●オリーブオイルは若年層と高齢層で用途が違う。求められるコトに合わせた提案が必要。

続いてオリーブオイルについても、2019年と2020年のスーパーの売上げの月別推移を見てみます。

ごま油ほどではありませんが、オリーブオイルもコロナ禍以降伸びてきており、第一次緊急事態宣言下の3~5月のパスタ需要での同時購買はもちろん、宣言解除後も前年を上回る動きを見せています。

オリーブオイルの食卓での使われ方の特徴のひとつが、年代によってオリーブオイルに求められている役割が異なっているということです。

図⑫はオリーブオイルの売上げ上位2ブランドの容量別での購買年代の違いを調べてみたものですが、200g未満のオリーブオイルは若年層寄り、200g以上のオリーブオイルは高齢層寄りの購買構成になっています。

また、若年層と高齢層ではオリーブオイルの購買タイミングも異なっています。

若年層はどちらかと言うと休日に購入しがちなのに対して、高齢層は平日の購買の方が強くなっています。一般的に、平日に強く購入されるものは普段使いされやすく、休日に購入されるものの中の用途のひとつとしてイベント使いされやすいというものもあります。オリーブオイルという商品に対する若年層と高齢層の意識の違いが表れています。 さらに、若年層と高齢層別に売上げ分解図でも違いを調べてみました。

図⑭は1店舗の年間での売上げ分解図です。図⑫で見たように、若年層は小容量サイズのオリーブオイル、高齢層は中容量・大容量サイズのオリーブオイルを購買する傾向がありますが、客単価はあまり違いがありませんでした。小容量が故の単価の高さ、大容量が故のお得感のある価格、といったことがいろいろと相殺されて同じぐらいの単価になっているようです。違いが大きく出たのが客数で、一度でも買ったお客様の数でも購買頻度でも高齢層が強く出ています。特に購買頻度での高齢層の高さが目立ち、普段使いされる傾向がこの売上げ分解図でも見えてきます。

オリーブオイルの購買動向や同時購買分析から、若年層と高齢層のオリーブオイルに求めているコトの違いをまとめてみました。

若年層はオリーブオイルをパスタや洋風料理に使用しており、オリーブオイルのイメージ通りのイタリアンや洋風メニューに限定して使用している傾向があるようです。一方、高齢層では健康に気を使う方がオリーブオイルを普段使うメインの油として使用しており、特に目玉焼きやスクランブルエッグといった卵料理やウィンナー焼きなど、毎日の朝食メニューに使用しているのではないかと思われる購買動向になっていました。若年層のメニュー限定での使われ方、高齢層の健康を意識した普段使い、といったオリーブオイルの使い方の違いを把握した上での商品づくり、売場づくりを考えていく必要があるようです

●こめ油、MCTオイルが伸びてきている理由は?生活者が求めているコトとは?

最後の章では、まだ売上げは大きくはないのですが、大きく伸びてきている、こめ油とMCTオイルにもフォーカスしていきます。

図⑯は、こめ油の2019年と2020年のスーパーの売上げの月別推移です。こめ油は伸び率としては、ごま油以上に大きな伸びを見せてきており、かつ直近でもその勢いは続いています。

こめ油はどういう方が買っているのか?、買われている年代や、使われているメニューを調べてみましたが、通常のサラダ油とほぼ同じ年代、ほぼ同じメニューに使われており、大きな違いはありませんでした。また、こめ油を買っている方は他の油の購入がほとんどなく、家で使う油を、ほぼ完全にこめ油メインにしていることがわかりました。 さらにこめ油を買っている方の普段の買物カゴの中の商品を調べてみると、こめ油を買うお客様がどういう方なのかが見えてきました。

図⑰は、こめ油購入者が普段どんな商品を買っているかのリストです。買われやすさ(リフト値)とは、例えばこめ油購入者はお客様全体の平均と比べて、銘柄豚を3.2倍買物カゴに入れやすいということを表しています。銘柄豚や銘柄鶏、和牛などの良いお肉が並び、また豆や煮干し、玄米、きな粉、お魚など、和食の健康的な素材が買われており、食にこだわりのある方のイメージが浮かんできます。惣菜の購入はあまりなく、素材にこだわった手作り派の方でもあります。当然、1回の買物金額も大きくなり、こめ油が入っている買物カゴの金額は全体平均の約1.5倍になっており、こめ油購入者は大事にすべきお客様になっています。

MCTオイルについても、スーパーの売上げの月別推移を見ていきます。

MCTオイルは売上げ規模はまだまだ小さいのですが、2020年前半から伸びが大きくなってきています。

MCTとは中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)のことを指し、ココナッツオイルやパーム油に多く含まれていますが、これを精製して100%MCTにして販売されているものがMCTオイルです。分解されやすく消化が早いため体内に脂肪として蓄積されにくく、ダイエットに効果があると言われています。熱には弱いため、サラダや飲み物に使用され、生のまま摂取されています。

アマニ油やココナッツオイルなど効果効能を謳う油はほとんどが高齢層寄りの購買が強くなるのですが、MCTオイルはダイエット効果で売上げを伸ばしてきているため、若年層寄りの購買になっているのが特徴です。

図⑳は、MCTオイル購入者の普段の買物リストの買われやすさが強いもの一覧ですが、チアシード、おからパウダー、糖質ゼロ・こんにゃく麺、プロテイン、アーモンドミルクなど、ダイエット効果でメディアに取り上げられた商品が勢ぞろいしてきています。ダイエットへのこだわりが強く、情報感度の高いお客様の姿が見えてくるのではないでしょうか。MCTオイルの販促ではこういった商品との関連販売が有効そうです。


今回は食用油に注目して、最近のトレンドとその背景にあるコトについて調べてみました。なぜその油を買っているのか?使っているのか?、背景にあるコトを購買動向から探っていくと、油ごとに特徴が浮き彫りになってきて、お客様の食に対する意識やライフスタイルまで結構はっきりと見えてきました。食用油は生活者をパターン分けする時に意外と重要な指標となる商品なのではないかとも感じました。特売の目玉にされがちな食用油ですが、それぞれの食用油に求められているコトに注目した売場づくりも工夫していきたいと思います。


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