コロナ禍以降の食品スーパーの売上増加から取り残されてしまっている惣菜部ですが、好調な農産部や畜産部と比較して何が違うのか?、どういった数字が違うのでしょうか?また、緊急事態宣言解除となった6月以降に惣菜部が巻き返していくポイントにはどういうことがあるのでしょうか?
今回はスーパー惣菜部の現状分析と今後の戦略立案に向けた提案についてお話していきます。
目次
まずは直近までの食品スーパー全体の売上状況を前年と比較して見てみます。
2月最終週のイベント自粛要請・休校要請から前年を大きく上回る日が続いています。 (図①)
ちなみに直近では少し赤線が青線に近づいていってきているように、つまり前年比増加率が下がってきているように見えます。カテゴリーでは特に、菓子や飲料での前年比増加率の減少が目立ってきていることから、学校が再開している地域の増加、在宅勤務の段階的解除、といった影響が出てきているように感じます。6月1日から自粛解除しているところが多いようですので、この流れが加速していく可能性があります。
この食品スーパー全体の売上状況の流れに対して、惣菜部の数字の流れを見てみると…。
ご覧のように、惣菜部全体では伸びは全く見られない状況で、ゴールデンウィークの惣菜特需も今年はなかったことがはっきりとうかがえます。(図②)
惣菜部の不振理由について、過去の記事においては、「お惣菜のバラ販売中止」(新型コロナウイルスのスーパー惣菜部への影響は? その①:おかず惣菜はどうなってる?バラ販売中止への対策は?)や、「勤労者の昼食需要減」「従業員の負担軽減のためのインストア作業の簡素化による弁当品ぞろえ減」(新型コロナウイルスのスーパー惣菜部への影響は? その③:主食惣菜について。スーパー側の大変な状況も品揃えに影響…)、などを挙げてきました。
今回は惣菜部の不振理由について、主に客数や客単価などを好調な他部門と比較して、その背景を探り、今後の方向性について考えていきたいと思います。
売上金額を「客数×客単価」に分解することにより、売上金額が上がったのは、客数が増えた=お客さんがお店にたくさん来てくれたためなのか、客単価が増えた=ひとりひとりのお客さんがたくさん買ってくれたためなのか、どちらが要因なのかを知ることができます。コロナ禍の影響が最も強く出ていた4月のデータから各部門のこれらの数字を比較してみます。
図③を見ると、売上が大きく上昇した農産部・畜産部は、客数の増加と言うよりは、客単価の大幅なアップ、つまりまとめ買いの発生が売上上昇の主要因であることがわかります。一方、売上の増加がなかった惣菜部は、客数が減少、客単価は前年並み、と客数の減少が売上に直接響いてしまっています。ちなみに客単価はさらに「一品当たり単価×買上点数」に分解されますが、一品当たり単価は上昇、買上点数は減少と相殺されて客単価全体としてはとんとんとなっています。
惣菜部について、さらに年代別での売上金額、客数、客単価の前年比の違いを見てみました。
惣菜部の売上は高齢層ほど金額の減少が大きくなっており、金額の増減は客数の増減と関係性が強いことがわかります。(図④)客単価はどの年代も微増で変わりません。コロナ禍での惣菜部の利用について、若年層と高齢層では対応が少し異なってきているようです。若年層と高齢層での惣菜部の利用時間帯の変化についても見てみましょう。
若年層では平日休日ともに午前からお昼の利用が大きく増加しており、平日の夜の利用減少、休日の夕方から夜の利用減少が目につきます。(図⑤)
高齢層では、平日の午前からお昼の利用は増加していますが、それ以上に平日休日ともに夕方から夜の大きな利用減少が目立ちます。(図⑥)
これらの現状分析から、惣菜部の不振理由について、客数と客単価の面からまとめてみると、
・買物頻度の減少によるまとめ買いニーズが、すぐに食べる必要性のあるお惣菜にはマイナスに働いている。
・普段、お惣菜の利用が多い高齢層が買物頻度を減らしたため、特に惣菜部に減少影響が大きく出ている。
・買上点数が多くなる夕方から夜の来店が大きく減少していることも、惣菜部に不利な状況となっている。
・年代別時間帯別では、特に高齢層の夕方から夜の来店頻度減少による惣菜部の減少金額が最も大きい。
といったことが挙げられます。
コロナ禍における買物スタイルの変化が、ありとあらゆる面で惣菜部にとっては悪い方向に働いてしまっている状況です…。
こういった現状を前にして取っていく対策の考え方として、withコロナで現在の状況がまだまだ続くという見方からの検討、afterコロナになって以前の状況に少しずつ戻っていくという見方からの検討、両面のシナリオがあると思いますが、どちらの未来になったとしても重要度が変わらない取組み事項として、「惣菜部にとって最も売上金額シェアの高い、高齢層の普段の平日休日の午前からお昼の需要を確実にとっていくこと」がひとつ挙げられます。地味な部分かもしれませんが、金額的には重要度は高いニーズです。
この高齢層の午前からお昼(10時台~12時台)の惣菜ニーズの現状についてあらためて見ていきたいと思います。まずはどんなお惣菜が買われているのかについて、売上金額の上位20カテゴリー、売上点数の上位20カテゴリーを調べてみました。
主食惣菜では、寿司(にぎり、巻物、いなり助六)が圧倒的に多く、丼物、弁当、おにぎりが続きます。おかず惣菜では、野菜サラダ(ポテトサラダ含む)、天ぷら、和風煮物、カツ、フライ、から揚げの順になっています。(図⑦)
続いて1回の買物で何種類ぐらいのお惣菜が購入されているのかも調べてみると、
1種類だけというのが46%、2種類が27%、3種類以上が26%、となっています。(図⑧)
2種類以上での組み合わせパターンの多いものを見てみると、
「焼鳥+サラダ」や「天ぷら+煮物」など、「おかず+おかず」の組み合わせが目立ち、家で炊いたご飯もしくはレトルトご飯のおかずとして利用がされていることがわかります。(図⑨)食事での品数については高齢層ほど品数の多さを重視する傾向があるため、こういった「おかず+おかず」の買い合わせがしやすいサイズ・価格帯の強化が必要になってきます。実際の購買行動でも、和風煮物について高齢層の10時台~12時台に買われやすい価格帯について、全年代全時間帯の価格帯と比較すると、
150円~200円未満の比較的小パック和風煮物が買われやすいことがわかります。(図⑩)
高齢層の午前からお昼の惣菜ニーズでは、この「おかず+おかず」のパターンと、もうひとつ「米飯主食+おかず」のパターンの主に2パターンの利用が主となっているようです。寿司にぎりの高齢層の10時台~12時台に買われやすい価格についても調べてみると、
平日では、300円台・500円台の比較的小パックのものが買われやすく、休日では700円台以上の大パックが買われやすいことがわかりました。(図⑪)平日では「寿司にぎり+おかず」のパターン、休日は「寿司にぎりだけ」のパターンでの利用がされているようです。
高齢層の午前からお昼での惣菜の利用シーンでの求められるコトは他にも、例えば揚物の優先順位は天ぷら(かき揚げ・海老天)→コロッケ→フライ(魚介系)→カツ(とんかつ)→から揚げの順、などがあり、ニーズをしっかりと把握した商品づくり・売場づくりが重要になってきます。
高齢層の惣菜ニーズに対する提案についてお話させていただきましたが、もうひとつ、若年層に対する提案についても考えていきたいと思います。若年層の惣菜ニーズの中ではボリュームが大きい「平日の夕方(17時台~19時台)需要」に着目してみます。(図⑤参照)
若年層は平日の夕方にどのようなかたちで惣菜を利用しているのでしょうか?高齢層と同様にどういった商品が買われやすいか、1回の買物で何種類ぐらいのお惣菜を購入されているかを調べてみました。
すると、1種類だけの購入が一番多く、商品としては揚物が購入されやすいことが分かりました。若年層では家での調理が面倒な揚物は惣菜に頼る生活者が多いようです。また、2種類購入する方はフライとカツなど「揚物+揚物」の組み合わせや「揚物+サラダ」の組み合わせが多く、3種類では「米飯主食+サラダ+和風煮物などの副菜」といった組み合わせが多くなっていました。
これらの結果より、若年層の平日夕方の利用シーンとしては以下のように大きく3つのシーンを想像することが出来ます。(図⑫)
・手作り補助:基本的に手作りだが、手作りの補助として惣菜を利用
・おかずだけ惣菜利用:夕食は惣菜ですませたいが、ごはんは家にあるのでおかずだけを購入
・惣菜完結型:夕食は惣菜のみで完結
今回は3つのシーンの中の「手作りの補助」としての惣菜利用ニーズについて、どのような対応をしていけばいいのか一例を紹介いたします。
若年層に平日の夕方、1種類のみ購入されている惣菜はから揚げ、カツ惣菜、コロッケといった揚物が多くなっています。
若年層はどのような価格帯のから揚げとカツ惣菜を夕方に購入しているのかを調べてみると、から揚げは200円台から400円以上の大パックまで幅広く購入されており、カツ惣菜は200円台と400円以上が買われやすくなっています。(図⑬)このカツ惣菜の200円台の中身をみてみると、チキンカツの売上も大きいことが分かりました。
これより、若年層の夕方購入にチャンスのあるコトをまとめてみると、
・から揚げ→夕方は小・中パックだけではなく、夕食のメインとして利用できるから揚げの大パックも品揃え
・カツ惣菜→家族の夕食のメインとなるように2枚入りなども品揃え。また、若年層に人気のチキンカツやチーズ入りなどのアレンジカツ商品もラインナップに。
といった対応があげられます。
若年層に対しても、求められているコトや利用シーンをしっかりと把握した商品づくり・売場作りが重要になってきます。
6月に入って自粛解除の流れを受けて、スーパーの閉店時間を元に戻す動きも出てきており、夕方から夜のスーパーの惣菜需要が復活してくることも見込まれます。逆に外食の店内飲食の夕食機会は戻りが遅くなる傾向が出てきていることからも、今後も注目を集める中食の夕食市場はスーパー・コンビニ・外食テイクアウトなどのチャネル間競争がよりいっそう激しくなってくると思われます。生活者の求める中食を、お惣菜を、今後も考えていきたいと思います。
記事についてのお問合せはこちらから。
記事・データの商用目的での使用はご遠慮ください。